• 斎藤 知之

抗うつ薬とは

うつ病の治療薬を総じて抗うつ薬と呼びます。ただし、抗うつ薬は不安障害(パニック障害、社交不安障害など)や心的外傷後ストレス障害、強迫性障害など様々な精神疾患を治療する薬です。ここで詳しく説明します。


抗うつ薬とは、読んで字のごとく、うつ病を治療する薬ですが、実は抗うつ薬により治療できる病気は、うつ病だけではありません。電車や人混みなどで発作的に動悸、呼吸困難感、冷や汗などが発生するパニック障害や、人前での不安緊張が強い社交不安障害、特定のものや場所に対する恐怖症、様々なことが不安になったり怖くなったりする全般性不安障害などの治療にも役立ちます。ちなみに、パニック障害、社交不安障害、特定の恐怖症、全般性不安障害などを不安障害(不安症)と一括りに呼びます。

また、何度も確認したり、手を洗ったりしてしまう強迫性障害や、過去の心的外傷やトラウマと呼ばれる体験により、不安症状や過去の記憶のフラッシュバックなどが生じる外傷後ストレス障害(PTSD)の治療にも抗うつ薬が有効です。また、女性特有の症状である月経前症候群(PMS)の抑うつ症状にも、抗うつ薬が一定の効果を持つことが分かっています。

抗うつ薬は総称であり、その中には色々な種類が含まれます。


代表的なものが選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor)です。英語の頭文字をとってSSRIと略されます。SSRIは、脳内のセロトニンという物質を増やし、気分を和らげます。


SSRIの欠点は、即効性が無く、内服を始めてから効果が出るのに数週間ほどかかる点です。また、飲み初めの数週間は吐き気、下痢、眠気などの副作用が起きやすいです。このため、投与初期は副作用ばかり出て効果が無いことになります。ただし、副作用は比較的軽いため、問題にならないことが多いです。

SSRIに分類される薬には、セルトラリン、パロキセチン、エスシタロプラム、フルボキサミンなどがあります。SSRIは副作用が少ないことから、第一に使われる薬(第一選択薬)として使われることが多いです。


SSRIを飲むと、人によっては不安、焦燥感などの症状が増したり、攻撃的、衝動的になったりする副作用が出ることがあります。中には衝動的になって自殺行動に走る人もいて、特に10代から20代前半では自殺企図の確率が上がるという統計結果が出ているため、若い人にSSRIを使う場合には慎重にならないといけません。

SSRIと似た略し方をされる薬で、SNRIという抗うつ薬もあります。これは、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(Serotonin Noradrenaline Reuptake Inhibitor)のことです。


SNRIはセロトニンだけでなく、ノルアドレナリンという神経伝達物質も増やす作用があります。このため、SNRIでは気持ちを落ち着かせる作用に加えて、痛みを緩和させたり、集中力を改善させたりする効果が期待できます。


SNRIには、ベンラファキシンやデュロキセチンなどがありますが、特に、デュロキセチンというSNRIが痛みを抑えることは広く知られています。SNRIもSSRIと同じく即効性がありません。効果が出るのに数週間かかります。また、投与初期の副作用もSSRIと同じで、吐き気や眠気などが出ることがあります。


その他には、ミルタザピンという抗うつ薬もあります。ミルタザピンは神経を直接的に刺激してノルアドレナリンやセロトニン系の神経を活性化させます。この薬理作用から、ミルタザピンはノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(Noradrenergic and specific serotonergic antidepressants: 略してNaSSA)と言われます。


ミルタザピンは、SSRIやSNRIよりも効果が早く出る特徴があります。副作用として眠気が強く出ますが、逆に眠れない人に対しては、睡眠薬と同じ効果が期待できます。また、SSRIやSNRIに多い吐き気の副作用は出にくいので、SSRIやSNRIを使ったけど吐き気が辛くて中止した人は、ミルタザピンを使ってみると良いかもしれません。

この他、三環系抗うつ薬四環系抗うつ薬などの抗うつ薬もあります。これらは古いタイプの抗うつ薬で、効果は他の抗うつ薬と同等なのですが、便秘や口が渇く、尿が出にくくなるなどの副作用が出やすいという特徴があります。稀に心臓への副作用が問題になることもあり、最近では真っ先に使われることは少なくなっています。三環系抗うつ薬、なかでもアミトリプチリンなどはSNRIと同じく痛み止めの作用があるため、疼痛緩和目的に使用されることがあります。

最後に、どの抗うつ薬にも共通することを説明します。抗うつ薬は、少ない用量から始め数週間かけて少しずつ増やし、徐々に有効量にまでもっていきます。いきなり多い量で使うと副作用が強く出る可能性があるため、少ない量から始めるのです。


抗うつ薬の推奨用量は薬の添付文書に書いてあります。なお、理想的な抗うつ薬の用量について、最近の研究結果を当ブログで紹介していますので、興味のある方は下記リンクをご覧ください。


抗うつ薬の適量


抗うつ薬を中止するときは、数週間かけて少しずつ量を減らしていきます。いきなり中止すると、めまい、知覚障害(錯感覚、電気ショック様感覚、耳鳴等)、振戦、発汗、頭痛、下痢等の離脱症状が出たり、精神症状が急激に悪くなったりすることがあります。


抗うつ薬は用法用量を守り、厳密にコントロールしないといけない薬になるので、使う方は薬の管理には慎重になってください。時々、自分の考えで用量を調整してしまい、副作用に苦しんでいる人を見かけます。十分注意しましょう。


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