• 斎藤 知之

生物心理社会モデルについて説明します

最終更新: 5月18日

このページについて:精神疾患の要因を考える上で便利な「生物心理社会モデル」について説明します。精神疾患は多因子であることが理解できます。


横浜の心療内科・精神科なら当院へ


精神疾患・精神障害は多因子説が有力で、複数の要因が絡むと考えられています。しかも、それぞれの要因も相互に影響するため、非常に複雑です。この複雑系を理解するために、精神疾患に関する要因を、生物学的要因、心理学的要因、社会的要因の三つに分類する考え方があります。これが、ジョージ・エンゲルが1970年代に提唱した生物・心理・社会モデル(bio-psycho-social model)です。


社会的な要因が我々の精神・心理に影響することは、誰もが経験的に知っているでしょう。誰だって辛い体験をしたら悲しい・不安などネガティブな感情を抱きます。特に身の回りの人との人間関係は心を揺さぶります。家族や家庭環境が精神疾患に影響することは多く、親とうまくいかない、子供と衝突してしまうなどの親子関係の問題や、離婚、夫婦関係の問題などをきっかけに、うつ病や不安障害などの精神疾患になることもあります。また、職場の環境や人間関係も関わってくると思います。人間は社会的な生き物で多くの人と関わりますから、こうした社会的生活が崩れると辛いですよね。社会的な要素としては、ご近所付き合いなどの地域レベルのものから、宗教や国の文化など大きな範囲の事柄もあります。

心理学的要因も理解しやすいと思います。物事の捉え方一つで、気持ちは変わります。よくある例えですが、コップに半分まで水が入っているのを見て、「半分しか水が入っていない」とネガティブに捉えるか、「半分も水が入っている」とポジティブに捉えるかで気持ちは変わります。当然ですが、ポジティブに捉える方が気持ちは明るくなりますし、ネガティブに捉えると暗い気持ちになります。これは考え方や性格的な要素であり、精神疾患の心理学的要因と考えることができます。また、自尊心、ストレスを処理する能力、自分をコントロールする能力なども精神疾患に影響します。精神疾患を考える上で、こうした心理学的な要素も考えねばなりません。

脳の生物学的異常や遺伝子なども、精神疾患に関わってきます。例えば、自閉症スペクトラムやADHD(注意欠陥・多動性障害)などの発達障害は、生まれながらの脳の異常であり、遺伝的な要素が強いものです。最近では、発達障害に脳の神経ネットワークの問題があることが、様々な研究から明らかになってきました。また、高齢者の精神疾患でも生物学的な要素が強くなります。歳を取ると脳が老化し、異常なタンパク質がたまったり、脳の血管が細くなったりします。こうした脳の生物学的な変化により、やる気が出なくなったり、怒りっぽくなったりと様々な精神症状が出ることが分かっています。さらに、ホルモン・バランスやビタミン不足、免疫の異常なども精神疾患の発生に関わります。これらも重要な生物学的要因です。

​このように、精神疾患は多因子が絡みます。これらをしっかりと評価するために、生物・心理・社会モデルは現在も利用されています。時々、精神疾患を単に心理的なストレスだけで説明したり、脳の異常だけで説明したりする人を見受けますが、そんなに単純に考えて良いものではありません。精神疾患には複数の要因があるので、多角的に評価する必要があるのです。

また、精神疾患の治療について考える上でも、生物・心理・社会モデルが役立ちます。まずは、生物学的な治療から説明しましょう。これは主に薬物療法、つまり、薬を使った治療になります。向精神薬は脳に直接的に作用して精神症状を改善させます。例えば、SSRIという抗うつ薬なら、脳のセロトニンという物質を増やして、うつ病を治療したり、不安症状を改善させます。ベンゾジアゼピン系の抗不安薬であれば、脳の神経のGABA受容体という場所に作用して不安を取り除きます。まさしく、脳に生物学的をもたらす薬が向精神薬になるのです。また、薬以外では脳に電気や磁気を流す治療もあります。これも、脳に直接作用する治療です。

心理学的な治療としては心理カウンセリング、精神療法があります。精神分析や認知行動療法が代表的です。医師と患者、または心理士と患者の対話により治療していくものが多いですが、行動療法といって、行動を変化させたり心のトレーニングをするような治療もあるので、必ずしも対話が必要なわけではありません。最近ではコンピュータを使った精神療法も出てきています。また、単に病気について説明したり、ストレスの対処方法を教えるだけでも、気持ちを落ち着かせる効果があるため治療と考えることができます。これを心理教育と呼びますが、これも心理学的治療の一つとして考えることができます。

社会的な治療もあります。これは医療職の人間が関わらないものもあるので、治療と言わず、社会的介入といったり社会的支援・サポートなどと言ったりもします。ようは、家族や近所に住む人たち、介護や福祉などの地方行政サービス、公的機関による経済的支援など、患者さんの周りにいる人たち、周りの社会が患者さんの生活を支え、サポートするというものです。これは医療職の治療ではありませんが、精神的な支えになり、精神科の治療に良い影響を与えるので、大事な方法論の一つになります。

このように、精神科の治療には色々な種類があります。単に診断をつけるだけでは、どの治療を選べば良いのか分からない場合もあるので、どのような背景があるのか、原因について考えることが治療を選択する時に重要になります。

また、様々な種類の治療を組み合わせることもありますが、このためには、精神科医だけではなく、色々な職種の人たちがタッグを組み、連携して治療するという多職種連携、チーム医療が必要になってきます。つまり、良い治療とは必ずしも診察室の中で医師と患者の二人だけで行うものではなく、多くの人が関わるものなのです。​

参考文献:Borrell-Carrió F et al. The biopsychosocial model 25 years later: principles, practice, and scientific inquiry. Ann Fam Med. 2004.


0回の閲覧

よりどころメンタル