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認知症に伴う精神症状の治療の選択肢

認知症に伴う精神症状の治療には、薬を使わない非薬物療法と薬物療法があります。詳しく紹介します。




認知症には様々なタイプがありますが、どの認知症でも精神症状が出る可能性があります。

認知症のタイプについてはこちらをご覧ください。

認知症の精神症状は異常行動とも合わせて、BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)と呼ばれます。BPSDには、物とられ妄想(自分がなくしたものを誰かに盗まれたと思い込む症状)や、幻覚、興奮、イライラ、攻撃性など色々とあります。不眠や昼夜逆転(概日リズム障害)など、睡眠の問題も多いです。アパシーといって意欲がなくなる症状や、うつ、不安も珍しくありません。

認知症の精神症状を治療する際に、どのように治療について考えていくのかを細かく解説します。プロセスを項目毎にまとめましたので、御覧下さい。

意思決定プロセス

まず、治療法について考える最初のステップとして、患者さんや家族が、医師、看護師、介護士などの医療者とよく話し合い、合意を形成しながら治療を計画するというプロセスが理想です。ただし、認知症は理解力や判断力が低下するため、意思決定そのものが困難です。このため、家族や介護者が代理で同意する場合もあります。少なくとも、本人だけで意思決定するのは難しいので、周囲の人間のサポートが必要になります。

病状の評価

まずは、どのような認知症があり、どのような精神症状や問題行動があるのか、しっかりと評価することが第一です。また、精神症状の原因は、認知症だけではありません。他の原因が特定できれば、ベストな治療法が見つかることもあります。

例えば、痛みが精神症状の原因になる場合があります。この際は、疼痛緩和、つまり痛みを和らげる治療が最優先です。高齢になると頭痛、血流低下による筋肉の痛み、関節痛や神経痛といった色々な痛みを抱えることが少なくありません。また、癌・悪性腫瘍による疼痛という可能性もあります。


痛みの種類によって治療方法は異なります。血流低下が原因であれば、温めて血行を良くすることが大事です。痛み止めの薬を使うにしても色々なものがあります。NSAIDsやアセトアミノフェンといった解熱鎮痛薬はよく使われますが、湿布薬を患部に直接貼るという手段もあります。神経痛にはプレガバリンという薬が有効です。SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)など一部の抗うつ薬も痛みを和らげる効果があります。癌による疼痛では、モルヒネを始めとする麻薬性鎮痛薬を使います。また、注射を使って薬を打ち込み、痛みの神経をブロックするという治療もあります。なかなか一筋縄にいかない場合は、ペインクリニックなどの専門家の意見を仰ぐと良いと思います。

認知症の精神症状の原因は他にも沢山あります。ビタミン欠乏、甲状腺機能の低下(橋本病など)、むずむず脚症候群(レストレスレッグ症候群)、てんかん、感染症など様々です。原因を特定すれば、治療法も分かってきます。血液検査や脳の画像検査などで原因を調べます。

心理教育

評価が終われば、認知症の精神症状について、医療者から本人や家族に説明します。これを心理教育とか疾病教育などと呼びます。本人がどうして不安なのか、なぜイライラしているのか、多少なりとも理屈が分かると、納得できますし、気の持ちようも変わってきます。

例えば、認知症の人がイライラしてしまい家族にきつい言葉を言うと、家族も腹が立って言い返し口論になるというケースがあります。この場合、家族が認知症によって精神症状が出ていると学ぶと、「病気だから仕方がない」などと思ってやり過ごすようになり、本人に言い返すことが減るかもしれません。すると、口論が減り、お互いの精神状態が安定することがあります。勉強というと苦手意識がある人もいると思いますが、ちょっと知るだけでも、捉え方が変わり、気持ちが切り替えられることもあるのです。

介護・福祉サービスの調整

介護・福祉サービスを利用して、家族と介護職の人たちが共同で介護する体制を整えることも大事です。関わる人数が増えると、一人一人に対する介護負担が減ります。介護している人が穏やかに過ごせるようになれば、本人の気持ちも落ち着いてくるかもしれません。また、トイレに連れて行って欲しい、水が飲みたいなどの要求に介護する人が素早く対応すれば、本人が満足して穏やかになることもあります。しかし、こうした要求に応えるには人手が必要です。だからこそ、家族だけで介護するのではなく、介護・福祉のサービス利用が大事なのです。

運動・エクササイズ

日々の運動は健康に良いだけでなく、気分を安定させる効果があります。これは認知症の人にも当てはまります。なるべく毎日、適度に運動することにより精神症状の改善が期待できます。散歩、ウォーキングと行った軽い運動で十分です。

音楽療法

音楽は人を楽しませたり、気持ちを落ち着かせる効果があります。本人が好む音楽ならなんでも良いです。

薬物療法

薬を使わない方法で解決しない場合は、薬物療法を考えます。

抗認知症薬

認知症の進行を遅らせる薬を抗認知症薬と言いますが、これにはいくつかの種類があります。メマンチンという薬は中等度以上の認知症に使う薬ですが、少しだけ興奮を抑える効果があります。このため、精神症状を緩和する目的でも使用する場合があります。ただ、かえって幻覚妄想や興奮が増える場合もあり、この場合は中止します。


また、コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)というタイプの抗認知症薬もありますが、これらの副作用で眠れなくなったり、イライラしたり、怒りっぽくなったりすることがあります。この場合は使用を中止します。

抗うつ薬

うつ病の治療薬を抗うつ薬と呼びます。抗うつ薬はうつ病だけでなく、様々な不安障害の治療にも使われます。認知症の精神症状でも、うつ症状や不安は多いので、この治療のために抗うつ薬が使われることがあります。この時、三環系抗うつ薬というタイプは使わない方が良いと言われています。三環系抗うつ薬には、抗コリン作用というものがあり、このせいで物忘れなどの認知症の症状が酷くなったり、便秘したり、おしっこが出にくくなるなどの副作用が出るからです。抗うつ薬にはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)という種類があり、こちらの方が副作用が少ないので推奨されています。

抗精神病薬

抗精神病薬とは、脳のドパミン神経系という神経ネットワークの働きを抑えることで、認知症に伴う幻覚、妄想、イライラ、怒りっぽさといった興奮系の精神症状を和らげることができます。

ただし、認知症の方や高齢者に抗精神病薬を使用すると、パーキンソン病に似た副作用(パーキンソニズムとか錐体外路症状と言います)が出やすいです。パーキンソニズムとは、手足が動きにくくなったり、勝手に震えたりする症状で、このために転んでしまい、骨折などの事故に繋がることがあります。

また、喉の動きも悪くなり、食事を飲み込む能力が低下する嚥下障害という副作用が出る可能性もあります。このため、気道や肺に食べ物や飲み物、だ液などが入りやすくなり、誤嚥性肺炎や窒息死などのリスクが高まります。

抗精神病薬には定型(第一世代)抗精神病薬と非定型(第二世代)抗精神病薬がありますが、認知症の人に抗精神病薬を使う場合は、できるだけ副作用が出ないように新しいタイプである非定型抗精神病薬を使います。非定型抗精神病薬には何種類かありますが、どれを用いる場合も、少量から始めて、用量をゆっくり増やすのが原則です。また、症状が落ち着いたら、できるだけ用量は減らした方が良いです。とにかく、できる限り少量を慎重に使うと思ってください。推奨用量が分かるものは以下に列挙します。

  • アリピプラゾール:3-9mg

  • クエチアピン:25-100mg

  • オランザピン:2.5-10mg

  • リスペリドン:0.5-2.0mg

この他にペロスピロンやチアプリドなどがあります。

気分安定薬・抗てんかん薬

てんかんという病気を抑える薬に、精神を安定させる効果があるため、双極性障害などの精神疾患の治療に用いられています。これらは、抗てんかん薬とか気分安定薬などと呼ばれます。しかし、認知症の精神症状を抑えるのには不向きなようです。

バルプロ酸という薬は認知症の精神症状には効果が乏しく、副作用のリスクも高いので使わない方が良いと言われています。カルバマゼピンという薬は認知症の人の興奮などを抑える効果はありますが、やはりふらつきなどの副作用が出やすいです。

ベンゾジアゼピン

睡眠薬や不安を取る薬(抗不安薬)にはベンゾジアゼピンという種類があります。しかし、ベンゾジアゼピンを認知症の人に投与すると、記憶力が低下したり、幻覚や興奮などの症状が急に出る(せん妄と言います)ことがあります。また、転倒のリスクも高まります。このため、認知症の人や高齢者には、なるべくベンゾジアゼピンを処方しない方が良いと考えられています。

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬

もしも、どうしても眠れないから睡眠薬を使いたいという場合には、ベンゾジアゼピン系以外の睡眠薬の方が、副作用が少ないためお勧めできます。非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬には、ゾルピデム、ゾピクロン、エスゾピクロン、ラメルテオン、スボレキサントなどがあります。これらの薬もふらつきなどの副作用がないわけではありませんが、ベンゾジアゼピンよりは副作用のリスクは少なくなります。

入院治療

認知症に特化した病棟(認知症治療病棟)に入院して治療する場合もあります。日本では、多くの場合、精神科病院に認知症治療病棟があります。入院する際には、同意書の作成が必要になりますが、認知症の人は判断力が低下しているため、家族などに代理で同意をお願いすることが多いです。これを、医療保護入院と呼びます。ご本人一人の意思だけで入院することは稀だと思いますので、ご家族も一緒に病院に来る準備をしておく方が良いでしょう。


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横浜駅西口 心療内科・精神科


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