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高齢者の精神疾患を評価するには


このページについて:高齢者の精神疾患には、老化や体の病気、認知症などの影響が考えられます。


高齢になると身体が老化しますので、様々な病気や怪我になりやすくなります。重い病気になったり、深刻な怪我を負ったりすれば、誰でも苦痛を感じます。こうした出来事が心理的ストレスとなり、軽いうつ状態から深刻なうつ病まで、様々な精神症状を引き起こすことは珍しくありません。また、体の病気はもっと直接的に、生物学的なメカニズムで精神症状を引き起こすこともあります。

つまり、老年期になってからの精神症状・精神疾患を正確に評価するには、背景にある様々な身体疾患の影響を考えないとならないのです。

例えば、歳をとると骨がもろくなり、酷いと骨粗鬆症になることがあります。また筋肉も弱り、バランス感覚も鈍るため転びやすくなり、結果として骨折が増えます。

高齢者の骨折でよく見られるのが、大腿骨の骨折(頸部や転子部といった弱い部分が骨折しやすいです)、太ももの付け根のあたりの骨折です。ここを折ってしまうと、単に痛いだけでなく、整復手術が必要になったり、入院が必要になったりしますので、患者さんには強い負担がかかります。そのため、大腿骨の骨折の後に、うつ病になることは珍しくありません。また、うつ病になると、余計に痛みが強まったり、意欲が低下してリハビリができなくなるなどの問題が生じます。つまり、大腿骨骨折がうつ病を引き起こし、さらに、うつ病が大腿骨骨折の治療経過に悪影響を及ぼすという負の相互関係ができてしまうのです。

参考文献:Alexiou KI, et al. Quality of life and psychological consequences in elderly patients after a hip fracture: a review. Clin Interv Aging. 2018.

また、せん妄といって、急激に認知症のような症状が出たり、興奮したり、幻覚が出たりする病気が高齢者に起こりやすいのですが、このせん妄は体の病気と関係が深いのです。例えば、肺炎や心筋梗塞などの重篤な体の病気は、せん妄をよく引き起こします。若い人よりも高齢者の方が、せん妄が起きやすいのです。

この他にも、体の問題から精神症状を引き起こす、または、精神症状を悪化させるようなケースは多々あります。そして、「病は気から」と言いますが、精神状態の悪化が、体に悪影響を及ぼすことも珍しくありません。

体と心は密接に繋がっており相互に影響するのです。体が悪くなると心を病み、心を病むと体も悪くなるという負のスパイラルが作られることもあります。高齢になると、体の問題が増えるのは自然の摂理です。このため、高齢者の精神疾患では、身体疾患の影響を無視できないのです。

また、認知症の初期症状として、物忘れよりも早くに精神症状が出てくることもあります。例えば、レビー小体型認知症というタイプの認知症では、初期から幻視や妄想といった精神症状が出てくることがあり、うつ病にもなりやすいことが知られています。この他にも、様々なタイプの認知症がうつ症状と関係します。したがって、高齢になってからのうつ病では、認知症の始まりも疑わないといけません。

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その他にも、脳梗塞脳出血などで、脳が直に障害されると、うつ病を始めとした様々な精神疾患になることがあります。こうした脳の血管の病気も、高齢になると増えます。脳梗塞や脳出血は、頭部のCT検査やMRI検査などで評価が必要になります。

脳梗塞・脳出血による精神症状について詳しく知る

もちろん、若い方であっても、体の病気が原因となって精神疾患になることはあります。一般論として、精神疾患には、心理的なストレス以外にも、遺伝的な要因、体の具合、ホルモンの異常、免疫の異常など様々な要素が関係します。これについては、別の記事で、生物心理社会モデルとして説明しました。高齢になると、体の病気のリスクが増える分、余計に生物学的な要因について考えないといけなくなるのです。

生物・心理・社会モデルについて詳しく知る

また、病気や原因の評価だけでなく、治療について考える際も、体の評価が大事になります。特に薬物療法を行う場合です。心臓や肝臓、腎臓などの内臓が悪い場合、使えない薬、使うとしても少ない量にしないといけない薬があります。また、糖尿病などの生活習慣病があっても使えない薬があります。高齢になると色々な病気を持つことが多いので、薬を使う前にこうした病気がないか確認が必要です。

そもそも、高齢になると体が弱り、肝臓や腎臓の代謝能力が低下し、薬が体に残りやすくなりますから、薬の副作用が出やすいのです。副作用のリスクを抑えるため、高齢者への薬の投与は少量から始めて少しずつ増やすのが原則です。

また、薬の種類が増えると薬同士が影響し合う薬物相互作用というものが出てきてしまうので、薬の種類も少ない方が良いと考えられています。しかし、残念ながら日本の場合は高齢者が多くの薬を飲んでいることが多く、副作用の問題が多いのが現状です。あまりに多くの薬を処方された場合は、本当に必要なのか、薬を減らせないのか主治医の先生に確認してみても良いと思います。

さて、高齢者の精神疾患の評価と治療について解説してきましたが、ご理解いただけましたでしょうか。今後も、さらに解説していこうと思いますので、よろしくお願いします。

#うつ病 #認知症

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