精神疾患の労災認定について説明します


このページについて:精神疾患の労災認定について国の基準を元に説明します。


精神疾患の労災認定が少しずつ増えています。ただし、まだ実際に労災と認められるケースはとても少なく、平成29年の時点では年間に506件しか労災が支給されていません。これに対して、労災の請求は1732件あったということですから、精神疾患で労災を請求しても3割ほどしか認められない計算になります。

労災は労働基準監督署が認定していますが、その判断のもとになる厳しい基準があるのです。平成23年に厚生労働省から精神疾患の労災認定について詳しく説明する資料が公開されています。

この資料では、精神疾患の要因を心理的負荷と個体的要因に区別して説明しています。こちらのサイトでは、生物心理社会モデルを使って、精神疾患の原因が複数あることを説明していますが、厚労省の資料はもう少し単純化されています。

労災が認められるケースは、仕事による強い心理的負荷がある場合だけです。それ以外の要因が強いと労災と認定されません。

例えば、アルコール依存症などは、アルコールという明らかな原因物質があるため労災とは認められません。もちろん、アルコール依存症に仕事のストレスも関係はしますが、もっと直接的に仕事からの被害を受けていないと労災と認定されないのです。

それでは、労災と認定されるような「仕事による強い心理的負荷」とはいったい何なのでしょうか。

人によって感じ方、捉え方、価値観は違うので、本来は心理的負荷の強弱を第三者が判断するのは難しいです。しかし、厚労省の指針では明確に基準を設け、心理的負担を強中弱の三つに分けています。このうち、「強」に分類される心理的負担があるか、または「中」の心理的負担が複数重なった場合に労災と認定されます。

患者さんの内情としては、自分の心という他人の目に見えないものを第三者が判断するのに抵抗があると思います。精神医学的にも、一概に、こういう場合は心理的負荷が強いなどと言えません。心理的負荷の有無は判断できても、その強さまで判定するのは非常に難しいのです。

しかし、労災認定の場合は、心理的負担が厚労省の基準を元に画一的に判断されてしまいます。これは、もうそういう制度だと割り切って理解するしかないでしょう。あくまで制度上の便宜的な判断なのです。

例えば、長時間労働で心理的負荷が「強」と判断されるのは、

  • 発病直前の1か月におおむね160時間以上の時間外労働を行った場合

  • 発病直前の3週間におおむね120時間以上の時間外労働を行った場合

  • 発病直前の2か月間連続して1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行った場合

  • 発病直前の3か月間連続して1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行った場合

  • 転勤して新たな業務に従事し、その後月100時間程度の時間外労働を行った場合

などとかなり具体的に数値化されています。

その他に「強」の代表的な例をあげます。

  • 会社が倒産しかねないミスをしてしまい、事後対応に当たった。

  • 退職を強要された。

  • 人格を否定されるような嫌がらせ、いじめを執拗に受けた。

こうした内容は心理的負担が「強」なので、労災と認定される可能性があります。

厚労省の指針で「中」に分類される心理的負担を見ると意外なものもあります。「中」は単独だと労災認定されない程度になります。

具体例を挙げると、

  • 身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハラスメントであって、発言が継続していない。

  • 業務に関連し、商慣習としてはまれに行われるような違法行為を命じられ、これに従った。

これらが「中」に分類されます。私の感覚では、上記の例は明らかに社会通念から逸脱した大問題ですから、「強」に分類されてもいいのではないかと感じるのですが、そうではないんですね。セクハラも何度も継続しないと労災認定されませんし、違法行為の強要も相当悪質なものでない限りは労災認定されないようです。

こうした基準は、政策の方向性で変わる可能性があります。あくまで現時点の基準と考えておく方が良いと思います。

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参考文献・サイト:

精神障害の労災補償について


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